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横浜地方裁判所 昭和63年(わ)439号 判決

主文

被告を懲役二年に処する

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都台東区上野《番地省略》所在のストリップ劇場「上野甲野演芸場」を経営していたものであるが、別紙一覧表記載のとおり、昭和六二年七月一一日ころから昭和六三年一月二〇日ころまでの間、前後八回にわたり、被告人が雇用する労働者である同表労働者氏名欄記載のフィリピン共和国国籍の女性A子ほか四名の女性を、別紙派遣先欄記載の神奈川県川崎市川崎区《番地省略》のストリップ劇場「川崎甲野劇場」経営者P子ほか三名のストリップ劇場の経営者に対し、同人らが、同人らの経営する各劇場において、同人らの指揮命令の下に、踊り子として使用する女性をして、多数の観客の面前で陰部を露出させ、あるいは観客と性交させてその姿態を観覧させるなどの卑わいなショーを演じさせることを知りながら、踊り子として派遣し、右P子らの指揮命令の下に同人らのために右のような踊り子として稼働させ、もって、公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をしたものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律五八条に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示別表番号8の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、各地のストリップ劇場において、踊り子に観客の面前において陰部を露出させたり、観客と性交させるなどの卑わいなショーをさせていることを十分に知りながら、昭和六二年七月から昭和六三年一月にかけ、前後八回にわたり、被告人が雇用するフィリピン人女性五名を、右のような踊り子として、各地のストリップ劇場に派遣し、公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をしたという事案であるところ、被告人は自らストリップ劇場を営み、常時フィリピン人等の外国人女性を支配下に置き、安価な出演料でいわゆる本番ショー等に出演させるかたわら、このような踊り子を必要とする他のストリップ劇場の求めに応じて、フィリピン人女性等を各劇場に派遣して利益を上げてきたものであって、たとえ、踊り子本人が希望して来た場合もあったにせよ、経済的困難から本邦に出稼ぎに来るフィリピン人女性等の窮状を知りながら、その弱味を利用し、かつ、同女らの人格を無視して醜業に就かせ、継続的、営業的に不法な利益を得ていたもので、犯情まことに悪質といわざるを得ない。そればかりでなく、近時、フィリピン等東南アジアの女性に絡む本件のような事件や売春の強要等の事件が増加し、国際社会、特にフィリピンなど東南アジア諸国の我国に対する信頼を著しく傷つけ、その対応に社会の関心が高まっていることなどにかんがみると、被告人の本件犯行は、社会的にも強い非難を免れないものであって、その刑事責任は甚だ重く、実刑に処することも十分考えられるところである。しかしながら、被告人が本件を反省し、既にストリップ劇場を手放して知人の経営する不動産会社に就職し、再出発する旨述べていること、被告人には、これまでに公然わいせつによる罰金の前科が一回あるに過ぎないこと等本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、今回に限り、その刑の執行を猶予するのが相当であると認めた次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田恒良 裁判官 山本博 戸田彰子)

〈以下省略〉

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